在宅でのハイフロー酸素療法:Díaz-Lobato医師、ハイフローの利用拡大を語る

昨今スペインでは、ハイフロー酸素療法(HFT:High-flow therapy)の利用が広がりつつあります。呼吸器専門医のSalvador Díaz-Lobato医師に、在宅でのHFTがCOPD治療に有用である理由についてお話しいただきました。

Díaz-Lobato医師へのインタビュー

Díaz-Lobato医師が在宅HFTの実施方法と主な留意点を説明します。さらに、在宅HFTを実施する場合の課題、臨床的な有益性、社会的な利点についても語ります。

在宅でのハイフロー酸素療法:Díaz-Lobato医師へのインタビュー

  • 在宅HFTがなかったころ、低酸素血症のCOPD患者さんはどのような治療を受けていたのでしょうか?

低酸素血症のあるCOPD患者さんの呼吸不全に対する古典的な治療法は、酸素療法です。この治療では、1日に少なくとも15時間、多くの場合には24時間の酸素投与を行ないます。なぜなら、呼吸器機能が低下し、自力で血中の酸素化を適切な水準に保てない患者さんには、高濃度の酸素を含む空気を供給して、必要な血中酸素濃度を維持しなければならないからです。そのときに、パルスオキシメータを使って酸素飽和度を測定したり、BGA(血液ガス分析)を通じて動脈血中の酸素分圧(PO2)を測ったりして、酸素濃度をモニタリングします。

酸素療法は消極的な治療法です。患者さん自身が頑張って酸素化を達成する必要があり、苦しいなかでなんとか呼吸をして、気道抵抗と戦いながら過ごさねばならないからです。一方、HFTは換気をサポートするテクノロジーで、さらに踏み込んだ治療方法だと言えるでしょう。つまり、患者さんの呼吸を助ける積極的な治療法です。言い換えると、血液中の酸素化を適切なレベルに引き上げるだけでなく、別の作用機序によって患者さんに恩恵をもたらし、呼吸を楽にするのです。こうした観点から、COPD患者さんの状態、COPDが呼吸と酸素化にもたらす主な問題、それからHFTの効果について考えると、理論上、HFTが従来の標準的な酸素療法とは大きく異なる、より好ましい治療法であることは明白です。

HFTの利点を示した記事や論文は、科学雑誌にいくつも掲載されています。ですが、私たちは今後さらに厳密な学術研究が発表され、強固な科学的根拠に基づき、ここに挙げた症状を抱える患者さんにHFTが適応になることを待望しています。

  • 低酸素血症のCOPD患者さんに関わるなかで、どんな課題に直面しましたか?

患者さんを対象とした新しい治療法の試験を進めるときには、その治療の効果や治療に対する忍容性が臨床的な課題になります。HFTは忍容性が非常に高く、他の治療法と比べても非常に優れていることがわかります。実際のところ、HFTの拒否率は他の治療法を大幅に下回っています。急性期病院では、一度HFTを受けた患者さんは別の治療法に戻りたがりません。

また、私たちは装置や資金の調達といった運営面の課題にも取り組んでいます。この種の課題は地域によって大きく異なるでしょう。現時点でHFTの果たす役割は明確なので、あとは財源を確保しなければなりません。

  • 患者さんにHFT療法を選択される理由は何ですか?

私は呼吸器科の呼吸不全領域の専門医です。かつて非侵襲性の機械的換気が使われだしたころに、私は新しい治療法の存在に気づきました。それがハイフロー酸素療法です。当時は知識が不足していたので、装置を取り扱っている企業に連絡をとり、患者さんと一緒に試用して、その効果を検証してみたのです。

長期間にわたってあらゆる種類の患者さんを治療し、探究を続けて10年を経た後に、私たちは主に急性患者に対する効果とHFTの作用機序に関する一連の科学的根拠を得るに至りました。現在では、なぜHFTを呼吸器疾患のシナリオに適用できるのか、どうしてHFTが急性低酸素性呼吸不全の患者さんに対する第一選択治療になるのかを深く理解するための基盤が整ったと考えています。さらに、病院で急性発症時の治療を受けている方ではなく、長期間の在宅HFTを受けている安定期の慢性患者さんについても、科学的な証拠基盤の構築が進んでいます。

 

  • 先生のチームは主にどんなことを懸念していましたか?

私たちは、新しいテクノロジーと非侵襲性の機械的換気を統合することには慣れていましたが、初めてハイフロー酸素療法の装置を使ったときに真っ先に感じたのは、とても手軽に使えるということでした。これは非常に大きな利点で、多くの病院にHFTが広まったことにも間違いなく影響していると思います。在宅療法への導入にも大きな意味をもつことになるでしょう。また、極めて迅速かつ柔軟に制御することができるという点も、治療に携わるスタッフの間でHFTを支持する動きが広がった理由です。この装置の導入により、看護にあたるスタッフの手間が大幅に増えることはありませんでした。

  • HFTの導入はどのようなプロセスで評価しましたか?

HFTの使用を開始して最初に実施したのは、この種の治療に適応する患者さんを選別することでした。次に看護、救急、救命治療の領域で、この療法による治療を行う専門家のトレーニング体制を整えました。それから、この治療を管理するための臨床プロトコルを策定しました。プロトコルでは、どのようにHFTを使用すべきか、どんなパラメータを設定するか、モニタリングの実施方法、治療が奏効しているかどうかを評価する方法、治療をやめるときの手順、治療をやめてもいい水準まで患者さんの病態が改善しているかどうかの判別法、病態が進行していない場合に在宅治療を継続するかどうかの判断基準を定める必要がありました。最後の点については、他の面も考慮に入れた別の活動プロトコルを策定することになるでしょう。たとえば、在宅治療の責任者、在宅治療で使用する装置に発生した技術的な問題の解決担当者、必要に応じて消耗品を供給する担当者、患者さんの自宅で行なわれるフォローアップの担当者などを規定します。

  • どのような人員で医療サービスを提供していますか?

呼吸器科のスタッフは、呼吸器科医、看護師、助手、用務員、理学療法士と専門家ぞろいです。そのため、HFTを病院に導入するときは、医師と看護師以外には無縁のものとするのではなく、その科のサービスに従事する専門スタッフ全員に関係する治療法として位置づけます。そうすることで、誰もがHFTに積極的に反応できるようになります。新しいものを取り入れたときによく起きる「新奇なものへの拒絶」は、HFTに関してはごく短期間しか続きません。その成果や利益が明らかで、当初からすぐに有効性を理解できたからです。

まとめると、質の高いケアを実現して優れた成果を出すことができるので、チームの全員に歓迎されており、患者さんの受けも非常によく、スタッフの負担を減らすことにもつながっています。

  • 在宅HFTの使用が適応となるのは、主にどのような場合ですか?

現状、在宅HFTはごく一部の患者さんに限定して使用されています。呼吸不全の小児患者さんについては、退院を可能にする方法が他にない場合に在宅でのハイフロー療法が行なわれています。また、病院で集中治療や中間ケアを受けている成人で、自宅では酸素投与または換気サポートに大きく頼らざるをえない患者さんにも使用されています。COVID-19パンデミックの状況下では、患者さんが病院環境の外部で過ごせるよう在宅HFTを紹介するという有効活用がなされています。この他、COPDなどの呼吸器の問題を抱える安定期の患者さんや慢性患者さんも、この治療法を使えば在宅で病状を安定させることができる可能性があります。もっとも、この種の患者さんには現時点で在宅HFTの治療がまだ普及されておらず、頻繁に急性発症や増悪を起こして救急治療や入院を余儀なくされる低酸素血症のCOPD患者さんや、肺分泌物や呼吸器感染に関連する問題を抱えた患者さんが主な対象となっています。現状は、過去に増悪を経験しそこから改善しつつある患者さんは、ハイフロー酸素療法による在宅治療が継続されるケースが想定されます。

  • 在宅HFTでは何を目標にしていますか?

主な目標は、患者選択基準に則って、より良い疾患管理を達成することです。具体的に目指していることは2つあります。まずは、患者さんの生活の質(QoL)を改善すること。そのために呼吸困難を減らすこと、安心して外出できるように活動能力を高めることをサポートし、生活に関する制限が少なくなることを目指します。もうひとつは増悪の頻度を減らし、患者さんが入院を余儀なくされる回数を減らすことです。

  • 患者さんには主にどのような影響やアウトカムがもたらされるのでしょうか?

患者さんには主に臨床的な効果があります。患者さんは呼吸の問題とそれに伴う生活の質の低下に悩まされています。HFTの選択基準を満たす患者さんであれば、改善の見込みはかなり大きいと思います。それに加えて、高い医療費を払わなくても状況の改善が見込めるという利点もあります。ハイフロー酸素療法を受けた患者さんは、臨床的に良い影響が得られることを実感するだけでなく、この治療なら今後も続けられるという自信をもつこともあります。

  • 先生がHFTで治療されているCOPD患者さんは、ほとんどが長期の酸素療法を受けている方ですか?

現状では、ほとんどの方がそうです。私たちが在宅治療を実施しているCOPD患者さんは、在宅酸素療法の基準を満たしており、自宅で酸素療法を利用しています。こうした患者さんは、酸素療法を受けているにもかかわらず、血中酸素濃度の管理が不良であったり頻繁に入院したりしています。このような状況で、患者さんが自宅ですでに酸素投与の治療を受けているのに病態が改善しないようであれば、私たちはHFTを試します。この治療法は患者さんの酸素化を改善するとともに、呼吸不全に関係する別の側面、すなわち換気力学、呼吸仕事量、生活の質、運動耐容能と運動能力、肺機能なども向上させる科学的文献が多くあります。言い換えると、HFTは広範囲に効果をもたらす治療法であるため、患者さんの酸素化の改善に留まらず、生活の質を向上させ、やがては疾患を良好に管理できるようにする目的でも使用されます。

  • 長期の酸素療法単独による治療と比較して、HFTが優れている点を教えてください

従来の酸素療法は、患者さんに酸素を投与する治療法です。患者さんは酸素を多く含んだ空気を送られるものの、それ以降の呼吸動作はすべて自分で努力して行なわなければなりません。一方でHFTは、患者さんに酸素豊富な空気を送るだけでなく、複数の機序によって呼吸を助けるので、ここが従来の治療法と異なるところです。それらの機序は肺リクルートメントに関わっています。つまり、開通している肺胞が増えてガス交換の表面積が拡大するので、患者さんは同量の酸素から効率よく酸素化を進められるようになります。加えて、気道抵抗を減らし、肺に空気が入りやすくします。呼気終末にエアトラッピングや気道内圧の問題が認められるCOPD患者さんの場合は、HFTにより胸腔内圧が制限され、エアトラッピングが改善されます。患者さんが高炭酸ガス血症の場合は、HFTによりCO2の排出が促されます。この働きがあることから、HFTは酸素療法ではなく、換気サポートの一種に分類されます。また、空気が加湿されるためそれだけでも有益ですが、さらに分泌物や呼吸仕事量、呼吸器の感染症などを減らす効果も見込まれます。

  • COPD患者さんに在宅HFTを施すときは、どのパラメータに注目すべきですか?

私の経験では、HFTの調節は非常に簡単です。なぜなら、考慮するパラメータが3つしかないからです。なかでも一番重要なのは流量で、HFTが最大の効果を発揮できるかどうかは流量にかかっています。治療ではCOPD患者さんのニーズに注目しなければならず、ほとんどの場合はエアトラッピングに注意します。長期間の在宅療法でエアトラッピングが発生していたら、流量を調節してその解消や低減に努める必要があります。それから、患者さんの忍容性によりますが、温度も調整が必要なパラメータです。温度は流量に対する患者さんの忍容性に合わせて調節するといいでしょう。最後のパラメータは、ハイフロー酸素療法装置によって加えられる酸素濃度です。在宅治療では、このパラメータを調節して患者さんに適した酸素飽和度を保つことができます。

  • COPDに対するHFT治療で、加湿はどのような役割を果たしますか?

加湿には重要な役割があります。HFTの主な特徴のひとつは、患者さんに投与される空気が肺内とと近い状態で加湿されているということです。このように空気が加湿されていると呼吸プロセスが全体的に改善されるので、それだけで患者さんにとって有益です。

  • 他にHFT装置に欠かせない性能や要素はありますか?

ハイハイフロー酸素療法用の装置は、簡便かつ快適に使用できなければなりません。特に患者さんの自宅環境で長期間使用する場合は、この点が重要です。この種の装置は安定性に優れ、頑丈で、故障しにくいことが求められます。加えて、前に述べた3つのパラメータの他に、患者さんをモニタリングできるよう、治療モニタリングに関するパラメータを備えている必要があります。とはいうものの、最も重要なことは優秀な管理チームの存在です。

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